柴田:さて今回リリースされるアルバムは、ラストタンゴにとってのファーストアルバムになるんですけど、最初に録音しようって言ってくれたのは江森さんでしたよね。
江森:あの時は、気軽に考えてたし、まさかこんな風にちゃんとしたアルバムになって世に出ることになるとは思ってなかったけどね。
一同(笑)
柴田:そう、最初はバンドの結束力を高めるために録るっていうのが目的でしたね。このバンド編成も少し変わっているので。
田ノ岡:そう、普通タンゴって言ったらバンドネオンじゃないですか。僕なんかアコーディオンですから。
柴田:あと、このバンドにはピアノがいない!アルゼンチンタンゴってピアノの存在感がものを言ってるバンドが多いでしょ。
田ノ岡:ピアノがサウンドのボトムになってますよね
。
柴田:はい。リズムもピアノが支配してるところが大きいですけど、江森さんそのあたりはギター弾いててしんどくないですか?
江森:いや、その分面白いかなって。たいがいピアノがいると、大きくピアノに委ねられるから、そういう時はギターはあんまり入る隙もないし。難しいけど、その分面白い。ま、タンゴってフォーマットで言うとどうなんだっていうところは分からないところもあるんだけど。
柴田:ただ、最初の五曲を録り終えた時点で、すごく自然に良いものができて、ピアノがいないことなんて全く気にならなかったんです。それでその時にエンジニアの 徳毛さんがこのバンドのメンバーのこと、飲み屋に集まった仲間にしか見えないって言ったんですけど、なんだか最高の褒め言葉に感じちゃって。(笑)
田ノ岡:それ、本当ですもんね(笑)僕も飲み屋に遊びに行くような感じで最初ライブに行きましたし。
それで、今やラストタンゴのホームとも言えるそのハコ、成増のレイルロードという素晴らしい店の熱いお客さんに育てられましたね。
柴田:そうですね。すごく応援していただいたし、バンド名の名付け親はこのお店のオーナーだし!
田ノ岡:日本だとジャズとか、タンゴとかアカデミックな匂いのするものって難しい顔をして聞く人が多いじゃないですか。
だけど、パリに行った時に感じたのは、日本でアカデミックとされている音楽聞くときもほんとに楽しみに来てるイメージがあって。そういう意味では成増は日本の中南米、感覚は世界基準です!
江森:ブエノスナリマス。
一同 (笑)
田ノ岡:世界で言えば、成増のレイルロードのお客さんの反応が普通。ロックコンサート以上に盛り上がってくれるし、でもしっかり聴いてくれてるし。
柴田:気楽に楽しんでくれてるのも、本当に嬉しいですよね。
田ノ岡:だから柴田奈穂というタンゴバイオリニストと一緒に演奏するということにおいても、垣根がそこで取っ払われたりしてるんですよ。タンゴってどっちかっていうとテクニシャンがやる音楽っていうイメージがあったので。
特にヌエボタンゴって言われてるものはね。
江森:クラシックっぽい面もあるもんね。伝統的な格式を重んじる面もあるというか。
田ノ岡:はい。それが全然違うアプローチで素晴らしいメンバーと一緒にやれるのがすごく嬉しくて。ラストタンゴって伝統的なタンゴやる人たちなのかなって思う人もいるのかもしれないけど、それで、聴いて騙されてほしいな。
江森:うん。そうだね。うまいこと崩していきたいね。崩すっていうのも実は難しくてさ、ただ崩せばいいってものでもないし、規格にあてはまるのも嫌なんだけど、 一応タンゴっていうキーワードがあってメンバーが集まってるわけだから、それはどっかにエッセンスとしてないとだめだと思うし、聴いてる人が感じてもらわ ないと意味がないしね。
田ノ岡:こういうメンバーじゃないと崩せないですよ。
江森:うん、そうかもね(笑)
柴田:どんなところにでもフレキシブルにいける人じゃないと。
江森:それで、いろんなことやってるようで、実はこれしかできないよっていう部分もあったりしてさ。
柴田:それってそれぞれの個性につながるところでもありますよね。
江森:カッコ良く言えば、その人のスタイルだよね。
柴田:それぞれが自分のやり口で歌っていくことが生き生きしたものを生むことにもつながってるのかも。
江森:そう思うよ。それをみんなが気に入ってくれたらそれが一番嬉しいよ。そういう意味じゃ今回は好き勝手やったからね(笑)
田ノ岡:それで、みんなボトムにもフロントにもいけるじゃないですか。役者が揃ってるって言うか。
柴田:出入り自由ですよね。
田ノ岡:今日ここには来てないですけど、上々颱風のベーシストでもある西村直樹さん、フロントの要素むちゃくちゃありますから。
柴田:そう、それでそもそも西やんがいないと始まらなかったしね。
田ノ岡:精神的支柱。
柴田:うん、彼が真ん中に立ってメンバー集めてくれたところもありますしね。
田ノ岡:だって最初は西村さんリーダーで、奈穂ちゃんと僕と三人でちょっとライブやろうって言ってくれたので来てみたら、その会場には江森さんがいたっていう。
柴田:なぜか(笑)
江森:西やんがうちにきて、「江森さん今度タンゴやるんで、タンゴの譜面貸してよ」って言うから、「いいよ、いつやるの?」って。で、聞いたら会場も近所だし、僕も昔ちょこっと弾いたことがあるので、じゃあやらしてよって。懐かしかったし。
柴田:ちょこっとじゃないですよね、江森さん。
江森:まあ、たまたま、大御所的なところにいさせてもらったことがあるっていう。
柴田:志賀清さんとか藤沢嵐子さんって言ったら、もう大先輩ですよ。
江森:その頃はタンゴの世界のこともよく知らなかったから、今考えてみたらびっくりするような経験しちゃったわけだけどね。
もうちょっとちゃんとしとけば良かった(笑)
一同:いやいや!!(笑)
柴田:江森さんもそうして経験がおありで、私もアルゼンチンの方とブエノスアイレスでレコーディングしたり、タンゴの専門家の方と演奏したりっていう経験があっ たわけですけど、そうしてタンゴ経験者と全く初めてタンゴをやるメンバーと一緒に演奏して、こんなにフレキシブルに行き来ができることってすごいなって思 うし嬉しくて!
最初録った五曲はカバーでピアソラ作品と古典タンゴ一曲だったけど、次はオリジナルに発展したり、ボーカルのマヤンが参加してくれたり。
田ノ岡:もともとタンゴやってなかったはずなのに、彼女は完全にものにしてる感じがしますね。これが私のタンゴだって。
柴田:マヤンの歌、他のジャンルのものも聞いたことあるんですけど、タンゴがすごくハマって聞こえたんですよ。初めてやった時。声質もね。
江森:うん、マヤンに合ってる。
田ノ岡:肝が座ってるから。
江森:もともとクラシックやってたっていう素養もうまく生きたのかもしれないね。
田ノ岡:それでバンドによっては、ドラムやったりとかしてるよね。
ほんとにこのバンドは引き出しの多い人が揃ってますよね。
柴田:三郎さんも相当すごいですよねー!
田ノ岡:いやいや。なんか褒め合いすぎかな(笑)
柴田:あはは(笑)でも、ほんとすごく良いメンバーでバランスの取れたところはあります。
田ノ岡:うん、アコーディオンが入ってるタンゴの必然性を出すことを最初は一生懸命考えてましたけど、録音してみるとこのメンバーだとアンサンブルしててすごく しっくりいくし、タンゴって言ってもサウンドが自然にPOPな方に向いていくので、より直感的に聴いていただける作品に仕上がっているのではないかと。
柴田:そうですね。その辺の進化も前半に録った五曲と後半に録った五曲の間に見てとれますね。
田ノ岡:そう、後半にレコーディングするにあたって、やっぱりオリジナル録らなきゃダメだって言ってくれたのもやっぱり、
柴田・田ノ岡:江森さんだったんですよ(笑)
柴田:だから、影でバンドの行く方向を操ってるのは江森さんじゃないかって(笑)
江森: いやいや、そんなことはないんだけど、せっかく作るんだったらっていう思いで。それでまあラストタンゴは、基本的にタンゴのフォーマットを持ってるんだけどタンゴバンドだっていう感覚は自分には無くてね。
いろいろジャズフュージョンとかあるし、タンゴがちょっと入ってる・・・、フュージョンバンドってのもおかしいけど、そういうところを引き出すのにオリジナルがあった方が良いだろうし、面白いなって。
田ノ岡:最初僕もこのバンドでどういうオリジナルがあるかなって考えたりしましたね。
柴田:そういえば今日、たまたまアルバムにオリジナルを作ったメンバーが揃ってますね。三郎さん、『百万遍』はどんなイメージですか?
田ノ岡:京都の百万遍という地名がすごく心に残ってね。京都ってすごく人の心を狂わせる魔力のある街だと僕は思ってて、落ち着くって方も多いですけど、僕は行くたびに胸騒ぎがしたりして、情念が渦巻いてる街のように感じるんです。
情念を極めたような曲を作ってみようと思いました。
ただいざ作ってみるとなんか火曜サスペンスのBGMみたいにならないかなあって思ったんですが、そこはラストタンゴのマジックで、みんなの音が生めかしく生きてきた感じがしました。エロって言うと安っぽいけど、何て言えばいいんだろう。
柴田:音色の奥深さみたいなことかな。そういうの、分かります。
和と洋の融合もすごく素敵だし。
あのね、『百万遍』は実は録ろうと動き出した時からずっとアルバムの最後を飾る曲なのかなっていうイメージだったんです。
田ノ岡:僕もそれはイメージしました。
柴田:でも、結果真ん中に置いたんですよね。
今回A面B面的な前半と後半を意識して構成したんですけど、A面の締めを『百万遍』に飾ってもらったっていう感じです。
田ノ岡:A面B面っていう感覚って最近また意識して作ってる人ちらちらいますね、CDでも。
子供の頃はずっとA面B面で聴いてましたしね。
柴田:今回二回に分けて録音してることがその辺りの意識にどう影響してるのか自分でも分からないところもあるんですが、ただ並べていく時にアルバムのひとつの山に百万遍がきてることは間違いないです。
田ノ岡 そしてオープニングは奈穂ちゃんの『Last Tango』ですね。
柴田:これはもう、江森さんが奈穂ちゃんも書きなって言ってくれたので、バンドのカラーが出た曲が書きたいと思ったので作ってみました。
マヤンが曲の立ち上がってくる時に台詞を言うでしょう。
あ れは、ブエノスアイレスにレコーディングに行った時にディレクターでお世話になった方が、『ブエノスアイレスのマリア』や『チキリンデバチン』の詩も手が けたられたオラシオフェレール氏と一緒に作られた、できたてほやほやの音源を聴かせていただいた時の感動がずっと残っててね。向こうの方たちの生きてる空 気感とか、思いとか、詩が曲に乗るともなく乗っている雰囲気とか、そういうものから彼らの誇りを感じたんです。
そんな風に『Last Tango』は日本で我々の生きてる音楽を作りたいっていう気持ちを込めました。
田ノ岡:ウェザーリポートのバードランドのような位置づけですよ。
柴田:わ、風呂敷広げましたね(笑)
田ノ岡:だいたいバンド名からして、俺たちが最後のタンゴだ、ですから(笑)
柴田:バンド名も最初につけた時に、わあ風呂敷広げたなって思いましたけど馴染んできてますね。
田ノ岡:その表題曲なわけですから。ラストタンゴ。
柴田:完成に至るまでに試行錯誤はありましたけどねー!
打ち込み入れたりもしたし。
田ノ岡:江森さんはギター20パートくらい重ねました?
江森:20ってことはないよ(笑)8くらい??
田ノ岡:オープニングにふさわしいですね。
奈穂ちゃんの表題曲テンション上がるし、そこにタンゴスピリットが込められているので心して聴いて欲しいと思います。
それで、江森さんの曲『Valz de Mayo』はまた可愛らしい曲ですね。
江森:あれは、作ろうよって言った手前、まず自分が作らなくちゃと思って作ったんだけど、一つにはやってる曲の中にワルツがあんまりなかったし、
柴田:アルバム中唯一のワルツですもんね。
江森:スキマ産業で。
一同 (笑)
柴田:江森さん、バランス良すぎるー!!
江森:ま、あとワルツがもともと好きでね。昔タンゴバンドにいた時にもいろんなワルツやるのが好きだったし、アルゼンチンのワルツってこんな感じかなっていうイメージが多少あって、
柴田:あれね。ほんとにネイティブの人が書いたんじゃないかって思えますよ。
田ノ岡:あの繊細なメロディの中で西村直樹さんのベースがまた大活躍してますね。
柴田:あの曲は、アルゼンチンに持って行っても普通にありそうな曲として受け入れられそう。その曲知ってるよ、とか言われそう(笑)
江森:あったりしてね(笑)
柴田:いや、ないんですけど(笑)
不思議と耳に残る曲です。
この曲があるから、アルバムを通して聴ける感じがします。
柔らかさとかほっこりする感じとか持ってる曲だし、ガツガツされるばっかりじゃしんどいですもの。
江森:やっぱ、アルバム全体通してどんなものが必要かなっていうことは、考えたね。どうしてもそういうこと考えちゃう。
最初五曲録った時、思いのほか仕上がりが良かったんで、アルバムにしようってことになって、で次の五曲をどうするかってことになって・・・。
録ってみて、結果的に良かったと思う、すごく。
柴田:歌のアレンジも江森さんやってくれてますし。
江森:むしろ、オリジナルよる歌のアレンジ作る方が難しかったな。
既成の曲を既成の通りに仕上げるってなると、ラストタンゴのカラーも出ないから、どっかでラストタンゴっていうのは変なんだよっていうのを出さないと。
柴田:(爆笑)
江森:みんなに反対されるのを覚悟の上でそういうことを考えた。
柴田:私はすごく気に入ってます。首の差でのイントロとか、まったく何の曲が始まるのか予測不可能なところとか。
江森:却下されると思ってた。
柴田:いやいや、大好きですよー!
中西俊博さんも書いてくれましたけど、私はこのバンドでタンゴ本来の筋を大事にしながらもその垣根を超えてゆけたらと思ってて、今回のアルバムはちゃんとその一歩になってるんじゃないかと思ってます。
最 初に録った時と、後では時期も違うし、録音に対する姿勢も微妙に違いますよね。いわば、とりあえず録ってみようっていうのが、コンセプトが見えてきて録っ たっていう姿勢に進化してるし。アルバムで見るとそれらが混ざった状態になってる。でも、結果的にそれがラストタンゴの始動一発目、自己紹介にはふさわし いアルバムになったんじゃないかと思ってて、私はもろもろ含めてすごく気に入ってます。
田ノ岡:もちろんタンゴって人生変えるくらいの衝撃のある音楽だと僕も思ってて、ピアソラの曲聴いたりすると、明日死んじゃっても構わないかなって20代の頃思ったりもしてたんですけど。
柴田:うん、例えばピアソラの恍惚感って破壊的な美しさを内包していますからね。それがジェットコースターみたいにスリル満点で、この先に何があるのか分からな くて、それは死ぬことなのかもしれないしそうじゃないかもしれない。それってすごくエネルギッシュで生きることにもなってるんですけど。
ア ルゼンチンタンゴに血の中に刷り込まれたような刹那的な音がするのは、アルゼンチンの人が何も狙ってそういう情熱的な音にしてやろうとか思ってるわけじゃ なくて、歴史的な背景もあってああいう風に生きるしかできないし、自然にしてたらああなったってところはあると思ってるんですけど、それがこれだけ離れた 国で私たちの心を揺さぶるのはなぜだろうって。逆に言えば、そこに近い感覚を持った人が心を揺さぶられているのかもしれませんが。
私、それの今回のアルバムの中では五重奏のためのコンチェルトのラストの三郎さんのソロが体現してくれてると思ってます。圧巻ですもの。聴いて欲しいです。
江森:あれは俺の中ではジョン・ロードだね。
柴田・田ノ岡:そうなんだ(笑)
柴田:垣根を超えたイメージが聴けるのは素敵。
江森:カッコいいよ。
なんにしても、ジャズだろうがロックだろうが、エネルギーの出てる時ってのは、カッコいいよね。
柴田:はい。
田ノ岡:(照) いや、あの、アルバムも最高の形でまとまってますけど、ライブと同じではないから、CDを楽しんで、ぜひ生でも楽しんでいただきたいですね。
それに歳取っていくにつれて、もっともっとタンゴの本質って分かってくるのかもしれない。これからもどんどん変な方向にいきましょう。
江森:楽しいよね。
柴田:はい、すごく幸せです。
これからも、いいものが作り続けられたらもっと幸せですし、大事だなと思います。
Photo: yamasin(g)
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